[エッセイ] 電車に揺られて神を恨んだ話

これほどの試練は今後の人生でもそうないのではないか。
わたしはゆっくりと天を仰いだ。

高校時代、わたしは電車通学をしていた。片道で1時間以上乗り続けるため、電車に馴染みがない人ならば小旅行くらいの距離だ。初めのうちこそ長いなぁと感じたものだったが、慣れてくればさほど大したことはない。ちゃんと席さえ確保できれば、スムーズに睡眠に移行することができる体質になっていた。

しかし、その日は違った。
こんなにも電車に乗っている時間が長いと思ったことはない。

当時、その電車にはトイレがなかった。

これだけで察しがつくであろうが、その日のわたしはひどい腹痛であった。乗ってしばらくすると嫌な汗が流れ出した。痛みに我慢しながら食べたものを思い出していた。

途中で降りて用を済ませばいいのだろうが、田舎の電車なのでここで降りてしまうと、再び1時間は待たねばならない。しかしも電車から車になるため、突如の予定変更は送迎の親も困らせる。その時分、携帯電話などはまだなかった。

何とか耐えるしかない。
なあにあと30分ほどの辛抱だ。
自らを鼓舞する。

いろいろ体勢を変えつつ、わたしはただひたすら時が過ぎ去るのを待った。
便意は一向に過ぎ去らない。

「もしかして、○○くん?」

突如、自分の名前を呼ばれる。
振り返ってみると、そこには見覚えのある顔があった。

「やっぱりそうだ。わー、久しぶり!」

小学校の同級生だった。

わたしは引越のため、小学校の同級生とは別の中学に進んでいた。そのため、彼女と会うのは3年以上ぶりということになる。ちなみに、わたしは彼女とほとんど話した記憶がない。彼女はいわゆる誰にでも話せる優等生タイプの人間だった。

「えー、電車で通ってるんだ」
「え? あ、ああ。うん」

神を恨んだ。
なぜこのタイミングで?

彼女は自分の近況を話しつつ、わたしのことも尋ねてきた。邪険にならないように受け答えをする。ただ、顔は多少引きつっていたかもしれない。そこは持ち前のポーカーフェイスで頑張った。

先はまだ長い。
そして彼女の話も終わる気配がない。
わたしは行き場のない絶望と怒りを感じていた。

時間はゆっくりと流れている。
永遠とも思えるほどに。

やがて、終点の1つ前の駅で彼女は降りた。わたしは多少ホッとしたものの、まだ根本の問題は解決されていない。それもあと数分の辛抱だ。頑張るんだ、わたしよ。人間として誇りを失ってはならぬ。

記憶はここまでしかない。

もちろん人としての尊厳を失った覚えもないので、すんでのところで何とかなったのだろうが、どこのトイレに行ったかが全然思い出せない。

ちなみに彼女とはそれ以来、1度も会ったことがない。

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